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「ペット」業界がコロナ後も強いと言えるワケ巣ごもりに加え、高機能フードや保険に勢い

コロナ禍で注目を集める「ペット」。その業界構造はあまり知られていません。

ペット関連業界が活況だ。コロナ禍で在宅時間が増える中、新規でペットを飼い始める人が増えた。ペットフード協会によれば、新規の飼育頭数は犬 猫 ともに 増加傾向にある 。

最近、オスで0歳のチワワを買い始めた男性(40代)もその一人だ。「中学生の息子、小学生の娘がペットを飼いたがった。テレワーク勤務が多くなって在宅時間も増えたため、世話をしやすくなったし、ペットショップでかわいい子犬と出会った」のがきっかけだ。

食費や医療費については思ったよりもかからないというが、吠えて近所迷惑にならないようにと、しつけ教室(5日間で6.6万円)に通わせたり、旅行中にペットホテル(1泊約5000円)に預けたり、トリミング代(1回4000円)など、出費は少なくない。

それでも男性は「近所に散歩へ連れて行くことで、犬友に出会ったり、休日に犬連れキャンプに行ったりと、新しい家族の楽しみが増えた」と満足げに言う。「親と子が一緒に子犬を育てるので、家族の絆は深まるし、子供にとっても責任感が芽生える」(男性)。

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ペット市場規模は4461億円 

ペットフード・ペット用品を合わせた国内市場規模は既に2019年度のだんかいで4461億円(前年度比5.5%増)で、そのうち犬猫向けが8割以上を占める 。ペットショップや医療などを合わせた全体の市場規模は約1.5兆円ともいわれる。

市場好調の背景は、コロナ禍による巣ごもり需要だけではない。ペットを家族とする意識が高まる中、ペット保険や高付加価値ペットフードなど、近年続く商品・サービスの広がりも後押ししている。

業界の中心となるのはペットフード分野だ。一般的なペットフードのほかに、最近では高齢化したペットのために、筋力維持や栄養バランスに資する高付加価値フードが人気を集める。またペット用のおやつ市場も盛り上がる。こうしてみると、コロナが収束してもまだまだ業界の市場規模が伸びる余地がありそうだ。

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ペットフード分野で圧倒的な存在感を誇るのが食品大手スイス・ネスレと米マースだ。

この2強は2000年代に入って同業の買収で拡大している。ネスレは2001年にラルストン・ピュリナ社を約100億ドルで買収した。マースは2015年に米P&Gから「アイムス」「ユーカヌバ」などペットフード部門の大半を約29億ドル買収したほか、2017年にアメリカの動物病院大手VCAの買収に総額91億ドルを投じている 。

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日系ではユニ・チャームが売上高トップ

上場しているネスレの場合、ペットケア部門は日本円換算で売上高1.6兆円、部門利益で3700億円をたたき出す。同社にとって、ネスカフェやミロを含む飲料部門に次ぐ、2番目に利益を稼ぎ出す事業だ 。

マースは売上高350億ドル(約3.8兆円)に達する非上場企業。日本では、お菓子の「スニッカーズ」「M & M’S(エムアンドエムズ)」で有名だが、同社の従業員約12.5万人のうち、約7割の約8.5万人がペットケア部門に従事しており、この部門の売上高がもっとも大きいと見られる 。

一方、日本企業ではユニ・チャームがペットフードやペット用品を手掛ける企業としては売上高でトップだ。同社子会社でペット事業を手がけていたユニ・チャーム ペットケアは一時は株式上場をしていたが、2010年に親会社からのTOBで吸収合併された。

ほかにもマルハニチロ子会社のアイシア、缶詰のいなば食品子会社であるいなばペットフード、三菱商事系の日本農産工業の子会社ペットライン、コンボ・ビタワンで著名な日本ペットフードなど老舗が顔を並べる。

老舗が多いペットフード企業に対して、伸び盛りなのが周辺ビジネスだ。「ペットは家族」という意識が浸透し、ペットホテルやしつけ教室といった手厚いサービスが続々と登場している。

代表的なのが高額な医療費をカバーするためのペット保険業界。シェア過半を占めるアニコムホールディングスは上場しており、業績、株価ともに拡大傾向だ。アニコムHDを筆頭に、動物病院やトリマーなどさまざまな企業が台頭している。

ただ、ペット関連を専門とする上場会社は少なく、アニコムHDのほか、専門商社エコートレーディング、高度医療を専門にする日本動物高度医療センターなど数社に過ぎない。

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「家族」意識が浸透し周辺サービスに活気

これは近年市場が成長しているとはいえ、市場規模が比較的小さいため、そもそも大企業の一部門がペット関連事業を手掛けるにすぎないか、独立系の多くが大手の傘下に入ったためだ。

2005年には日用品卸大手あらたが、ペット関連品の専門商社最大手ジャペルを買収。最近でも2020年に日清製粉グループ本社が傘下の日清ペットフードをペットラインに譲渡している。保険では独立系だった日本アニマル倶楽部が2019年にSBIインシュアランスグループの傘下に入るなど、成長市場を取り込むべくM&Aが盛んだ。

盛り上がりを見せているペット関連業界だが、課題もある。ペットショップで子犬や子猫など生体販売を行っていることから生じる問題だ。

業界地図の「オススメ情報源」でも取り上げた書籍、『「奴隷」になった犬、そして猫』(太田匡彦著、2019年、朝日新聞出版社)では、こうしたペットブームの陰で起きている繁殖や店舗販売の問題について、ビジネスモデルを含めて丹念に迫っている。

もし、ペット関連業界の別の側面を知りたい場合は、ぜひ一読すべき本といえるだろう。


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